11年間の川中島における両家の争いに決着をつけるべく、両家から力士を１名ずつ出してその勝負により、勝った方が川中島を領することと約束の上、武田方から安馬彦六、上杉方から長谷川与五左衛門を出して勝負した。二人の力士は組み打ちし、ついに上杉方の長谷川が勝つ。武田家は無念がって千余騎の兵が出撃準備をして今にも討って出ようとした時、信玄言った。「鬼もあざむくほどの彦六が、あんな小男に負けたのは武運が尽きたからだ。前々から組み打ちの勝負次第で決着をつけると約束した以上、川中島は約束通り渡さなければ行けない。違約は武士の恥。君子に二言はない。」と言い帰陣した。


信濃に出陣した、あるとき鳩が一羽、信玄本陣の庭先に木の上に舞い降りてきた。皆はこれを見て口々にささやいて喜んだ。信玄がそのわけを尋ねると、「鳩が樹に来るときは、合戦に大勝しないことはありません。縁起の良いことです」と答えた。
すると信玄は、猟銃ですぐさまその鳩を撃ち落として、みんなの迷信を打ち砕いてしまった。これは、もしそういうことを皆が信じているようでは、合戦時に鳩が来なかった場合、落胆したり不安を感じたり、あるいは敵を恐れる心が生じ、合戦が危機に瀕するようなことになるかもしれないとの配慮からであった。


烈石山雲峯寺に所蔵されている「疾如風徐如林侵掠如火不動如山」の旗印は、武田信玄の戦陣での大将旗であり、信玄の自筆によるものと言われる。
旗に記された14文字は、中国三国時代、魏の曹操孟徳が書写したという『孫子』の軍争編から引用されたものだといい、信玄の戦術の根本はまさにこの旗印に表れている通りであった。そういう意味では、この旗をして信玄の戦術眼をまとめることができるだろうというものである。