ありがとう 大久保先生
ここに
1枚の封筒があります。
これは
私が居合道の大会で
優勝した時に 範士十段
大久保伝之介先生から頂いたものです。
中には
1万円札が入っていて
6年たった今でも空けていません。
ドラマ「北の国から」で
父親からもらった
泥の着いた1万円札を主人公が
大切にとっておくシーンのように
大久保先生から頂いた
この封筒は、私の宝物であり、
今だに空けることができません。
その大久保先生が
今年 94歳で
亡くなられました。
もう数年前のことですが、
宗家講習会で
「颪」という技ができなくて
悩んでいた時に
大久保先生が
講習会が終わった後に
近づいてこられて
私に指導していただいたことを思い出します。
その時に
「君が全国大会で優勝したら、
お祝いをやるからな!」と笑顔で
話されました。
しかし・・・
私が大会に出場するも
何回も負け続け、
あまりにも勝てないので
あげくには、
「居合道は勝ち負けじゃないからな」
とまで気をつかっていただいたことを
思い出します。
それから
数年後に
なんとか結果を出すことができて
大久保先生に喜んでいただいたのですが、
今考えると
大会で「勝ちたい」というよりは
大久保先生に喜んでもらいたい
という気持ちが大きかったような
気がします。
と言うのも
私は幼稚園の頃から
大久保先生の居合道を見ていて
二天一流・15代宗家だった
故・松永典幸先生と
大久保先生が、
お二人で稽古をされている姿を
今でも、はっきりと覚えています。
その当時は、熊本にも
居合道を稽古する人が少なく、
武蔵館道場は、
私の父と岡嶋先生、
そして大久保先生が
松永先生の道場で稽古していました。
私と弟は
父について
道場でチャンバラしたり
鬼ごっこをしたりして
今考えると
恥ずかしいのですが
大久保先生は
いつも私達を暖かく見守ってくれました。
当時の太田先生(私の父)。
もうすぐ70歳の先生が
これは20代ですね。
昭和52年の写真だと思うのですが
第2回九州地区・居合道大会の様子。
白川小学校の体育館ですね。
会長席にいらっしゃるのが
松永典幸先生で
ここには大久保先生は写って
いらっしゃらないですが、
ご演武されています。
私も、この会場にいたので
もう大久保先生には
40年近く
お世話になってきたのだなと
思うと本当に感謝です。
私が居合道を始めようと思った
きっかけの一つに
大久保先生のエピソードがありまして
それは
祖父の葬式の時に
大久保先生が、葬儀の間中
姿勢を崩さずに正座されている姿を見て
親戚のみんなが
「あの姿勢の良い男性は誰?」
と話題になっていました。
「あれは居合道の先生よ!」と
親戚のおばちゃんが話すと
全員が
「さすがやね〜居合道の先生は凄いな」と
納得しているのを目撃しました。
私が感動したのは
大久保先生が「強い」とか
「何かを凄く斬る」とか
「ものすごい段を持っている」とかではなく、
そこにいる姿が美しいという「品格」でした。
もともと大久保先生は
ゼロ戦のパイロットで
奇跡的に助かった
「特攻隊」の生き残りでした。
50人で特攻に出て
49人亡くなって
たった一人助かったのが
大久保先生だったと言います。
東京大空襲の時、
真っ赤に燃える東京の上空を
涙を流しながら
ゼロ戦で出撃した話しを
聞かせていただきました。
この美しい日本を守るために
散っていった
友人達との別れは
さぞ、つらかったことでしょう。
そんな様々な経験が
大久保先生の「品格」を
作り上げたのかもしれません。
以前、
熊本の武蔵会で
88歳のお祝いをした時に
大久保先生は会場に
たった1枚の写真を持ってこられました。
そこには
特攻で飛び立っていった仲間達と
一緒に写った大久保先生の写真があり、
ここに写っている自分以外の
全員が特攻で散っていった
「自分だけがお祝いしてもらうなど
仲間達に悪いから彼らも一緒に
お祝いしてやってくれ」と
大久保先生は話されました。
その仲間達への想いが
大久保先生の美しさでした。
また、
大久保先生は
九州地区連盟の業務を
黙って30年支えてこられました。
それは
パソコンなどない時代から
手作業でやると膨大な作業です。
昇段審査、大会、宗家講習会など
様々な作業です。
だからと言って
「俺がやってあげている」とか
「なんで俺ばっかり」などとは言いません。
ただ黙って
もくもくと続ける大久保先生が
いらっしゃったからこそ
今の九州地区居合道連盟がある
と思います。
時代も変わっていろいろ
あります。
なんか世の中の
「かっこいい」という定義も
おかしくなっているようにも感じますが、
私達は大久保先生から
学ぶことがたくさんあると思います。
あらためて
素晴らしい先生に出会えて良かったと
思いました。
最後になりますが
大会の後、報告に自宅にお伺いすると
必ず立って待っていてくれた大久保先生。
今でも、そこにいるような気がしますが
もういない・・・
今頃、天国の仲間と語り合っているかも
しれませんね。
大久保先生は旅立たれましたが、
先生の技は
私達の中で生き続けます。
大久保先生 ありがとうございました。
心よりご冥福をお祈りいたします。
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