恋とホタルと武士道と

 

「さゆり葉の

しられぬ恋もあるものを

身よりあまりて行く蛍かな」

 

藤原定家

 

 

夏の繁みに咲く

小百合の花のように、

人に知られぬ様に

ひっそりと想う恋もあるというのに

 

その想いを隠すことができずに

身から光が溢れるように

蛍が飛んで行く・・・

 

という

定家のロマンチックな歌です。

 

この歌は、

 

「万葉集」 夏相聞

大伴坂上郎女歌一首

 

「夏の野の

繁みに咲ける姫百合の

知らえぬ恋は苦しきものぞ」

 

という古い歌に登場する

「姫百合」を引用してあり、

 

姫百合の「姫」は

小さく可愛いという意味だけでなく

 

「秘め」という意味が隠され、

夏草に隠れるように咲く花と

 

誰かを想い秘めた恋心を託して

歌を詠んでいます。

 

「姫ゆり」はユリ科の花。

 

夏に花を咲かせ、

他のユリ科の植物に比べると

 

背丈、花、ともに小ぶりで

目立ちにくいところから、

 

「知らえぬ」にかかります。

 

 

夏の野の繁みに

ひっそりと咲いている

姫百合のように、

 

愛している人に

知られぬままの恋って

なんと苦しいのだろう・・・

 

という意味の切ない歌。

 

でも、武士道にも

同じような世界があります。

 

「葉隠」で山本常朝は

 

好きな相手に告白するのは、

「相手が欲しい」という意味であり、

自分の欲望に過ぎない。

 

「究極の恋」というのは、

相手に告白しないこと。

でも、相手のことは徹底的に守る。

 

たとえ相手に気付かれなくても、

誰かに褒められなくても、

 

相手の事を守る

という世界が美しいと表現しました。

 

恋はかなえてしまうと

それだけのことで

つまらないものになる。

 

だから、一生心に秘めておくことが

無気力な人生を送るより、

生きることを実感し、

 

濃い人生が味わえると

彼は言うのでした。

 

メールで告白した!

なんていう進化した現代人には

わからない・・・

という人もいると思いますが

 

武士道「葉隠」の思想には

万葉集から続く、

日本人の美学が含まれ、

 

私達が「ホタル」を

愛すことと深い関係があります。

 

 

蛍は儚い虫で、寿命も短い。

成虫は、幼虫の時に蓄えた

養分のみで生きており、

 

食事は葉っぱについた

夜露を飲むだけ。

 

そんな悲しい虫が、

 

自ら光源となって、

かすかなグリーンの美しい光で

わたしたち人間を癒す。

 

急速に進む現代社会の中で

忘れかけている

 

日本人が大切にしてきたものを

「ホタル」が気付かせてくれます。

 

本日の最後は、

「後捨遺集」より

和泉式部の歌をご紹介して終わります。

 

はかなく生命を燃やしながら

さまよう蛍の光を、

 

恋に焦がれる余りに

「自分身体を抜け出す魂か」と思う

という歌。

 

 

男に忘られて侍りける頃、

貴船に参りて、御手洗川に

蛍の飛び侍けるを見てよめる

 

「物思へば

沢の蛍も我が身より

あくがれいづる

魂(たま)かとみる

 

 

今年は

美しく消え行く

ホタルとの一期一会を通じて、

日本の美意識を感じてみては

いかがでしょうか?

 

 

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